【認知症の一種である前頭側頭葉変性症(FTLD)の発症メカニズムを解明 ~名古屋大学】
名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英)神経変性・認知症制御研究部門の祖父江元(そぶえげん)特任教授と難治性神経疾患治療学の石垣診祐(いしがきしんすけ)助教らの研究グループは、前頭側頭葉変性症(FTLD)の発症メカニズムとして、原因分子である RNA タンパク質 FUSの機能不全が、アルツハイマー病など認知症に強く関連するタウタンパク質のアイソフォームの変化を通じて症状を引き起こす仕組みであることを明らかにしました。
FTLD は、人格の変化や情動の障害が前景に生じる認知症であり、万引きや痴漢など反社会的行為を起こしてしまうことがあることから、社会的にも問題になっている疾患です。一方で FTLD は、運動ニューロン病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)と遺伝的、臨
床的、病理的な共通性を持つことから、同一の疾患スペクトラムを形成しているとも考えられています。
その中で、FUS は ALS と FTLD の病態に遺伝学的・病理学的に強く相関することが知られている分子であり、加えて RNA の代謝機能を有することも知られています。
しかし、この FUS が病気を引き起こすメカニズムについては、その多くが不明でした。研究グループは、FUS が神経細胞の核内で別の RNA 結合タンパク質である SFPQと結合して、複合体を形成することを見出しました。
また、FUS と SFPQ のどちらもが、アルツハイマー病など認知症に強く関わるタウタンパク質の種類(アイソフォーム)のバランスを制御することも明らかにしました。
さらに、FUS や SFPQ の機能喪失マウスモデルでは、このタウタンパク質の種類(アイソフォーム)のバランスが崩れることで、情動の異常など FTLD に類似する高次機能の障害が起きることを明らかにしました。
以上のことから、FUS と SFPQ の質的な機能喪失が、タウタンパク質のアイソフォームバランス異常を通じて FTLD の病態に関与する可能性が示唆されました。今後、これらFTLD をターゲットとした早期診断や治療に応用されることが期待されます。本研究成果は国際科学誌「Cell Reports」(米国東部時間 2017 年 1 月 31 日付けの電子版)に掲載されました。
http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20170201_med.pdf