2015.7.7
既存の治療薬が効かないてんかん患者に効果のあるケトン食療法の仕組みを、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の井上剛准教授、佐田渚大学院生らの研究グループが突き止めました。本研究成果は、2015年3月20日、アメリカの科学振興協会(AAAS)発行の『Science』に掲載されています。
ケトン療法とは1920年代に開発された抗てんかん作用を持つ食事療法のひとつで、高脂肪、低炭水化物から構成され、難治性てんかんの治療法として一部の患者に効果があることが知られています。てんかんは脳が発する電気活動の過剰興奮を特徴とし、全人口の約1%が罹患しています。ケトン食が引き起こす代謝変化がどのように脳の電気活動を変化させるかを解明すると共に、日本国内で難治性の小児てんかんの治療薬として2012年に承認された『スチリペントール』の化学構造を改変することで、ケトン食療法に基づくてんかん治療薬が開発可能であることを示しました。
歴史的に、従来のてんかん治療薬は「電気を制御する分子」に作用するよう開発されてきました。てんかんが、脳の電気活動の過剰興奮で特徴づけられるためです。しかし今回、「代謝を制御する分子(代謝酵素)」が、てんかん発作を制御することを示されたことで、100年近く開発に成功していない新しいコンセプトのてんかん治療薬画の誕生が期待されます。
また、本研究では脳が発する電気活動を調べるために、電気生理学という学問分野および実験技術を用いて進められました。電気生理学は、脳科学の基礎技術として位置づけられます。
しかし今回、電気生理学が脳疾患治療薬の開発にも有用であることが示され、電気生理学を軸とする創薬研究は、今後益々注目されるでしょう。