前・広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経内科学 教授
松本 昌泰 Masayasu Matsumoto(まつもと・まさやす)
- 脳神経内科を専門として選んだ理由を教えてください。
- 内科研修中に父親が脳梗塞に罹患し、本疾病を主な対象疾患の一つとしている脳神経内科を専門とすることを決意しました。
- 脳神経内科医としてやりがいや喜びを感じるのはどんな時でしょうか?
- 脳神経内科領域では脳卒中、認知症、てんかんなどの頻度の高い疾病から、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、神経免疫疾患などの各種の難病まで大変に広い領域をカバーしており、社会的ニーズが極めて大きいです。また、多くの領域で長足の進歩が見られますが、専門とする脳卒中領域についても、その診断・予防・治療法が急速に進歩してきています。実際、一旦発症した脳梗塞でも超急性期の治療やリハビリテーションの進歩により完全社会復帰できる症例が着実に増えてきており、患者さんや家族から感謝される機会が増しています。また、再発予防対策も充実してきており、患者さんやご家族に安心感や希望を持っていただけることが、何よりの喜びとなります。
- 研修医時代の思い出を教えてください。
- 私たちが内科医として研修をスタートした頃には、CTスキャンが臨床で使われ出した頃で、脳出血の診断すら不確実で、手術適応のある外側型脳出血を血管撮影で診断していた時代です。市中病院ではまだCTスキャンのある病院が少なく、救急車でCTスキャンのある病院まで患者さんと同乗して行く必要がありました。脳梗塞は早期にCTスキャンを撮ることで出血を否定してからでないと確実な診断はできず、治療は抗浮腫療法や合併症の治療が中心でした。しかしながら、神経学的所見を丁寧にとり、病巣や重症度を評価し、リハスタッフらとのチーム医療において中心的役割を果たせたことは大変やりがいのある経験でした。その後のMRI、MRA、脳血流SPECTや超音波法などの画像診断の進歩により、病態診断に応じた治療、超急性期の血栓溶解療法の導入や血管内治療の進歩には目を見張るものがあります。
- 医師をめざす人へメッセージをお願いします。
- 「ヒトはヒトのヒトたるを決定づけている臓器とも言える脳をどこまで解明できるのか?」は脳科学の醍醐味であり、人類の究極の課題といっても過言ではありません。一方、「ヒトはヒト自身の脳を病や傷害からどれだけ守り、救うことができるのか」は医療の究極の課題の一つであり続け、脳神経内科はその中心的役割を果たす領域であり、そのような領域に身を置くことは、極めてやりがいのある医療人としての生涯を過ごすことができます。脳血管障害、認知症、てんかん、頭痛、パーキンソン病およびその類縁疾患、神経免疫疾患、各種の難病など、極めて広い領域をカバーする大きな診療科であり、脳神経内科医の需要は極めて大きいです。メイヨークリニックやマサチューセッツ総合病院など名だたる医療機関では脳神経内科は最大の診療科となっており、今後の益々の発展が期待できる診療科です。また、基礎・臨床研究の進展により、診断、予防、治療において様変わりしつつある領域であり、チャレンジ精神旺盛な若い医師にそのダイナミズムをともに感じ、担って頂ければと期待しております。